◇自社の儲けの構造=損益構造を把握する
引き続き「経営の3つの輪」から、「利益の輪」を回していくためのチェックポイントをご紹介していきます。その前にまず、基本的なことではありますが、損益計算書について少しご説明していきましょう。
損益計算書とは、会計年度期間における企業の経営成績を記したものです。
一定期間にいくらの収益が上がり、その収益を上げるためにいくらの費用を使ったか、企業の経営活動によってもたらされた、売上、原価、利益などの損益状況が記されています。
ちなみに、損益計算書はP/Lと略されることが多くあります。
P/Lとは、「Profit(利益)andLoss(損失)Statement」の略称です。
損益計算書の構成は「経常損益の部」と「特別損益の部」に大別されます。
そして、「経常損益の部」で売上総利益、営業利益、経常利益が算出され、「特別損益の部」で当期利益及び当期未処分利益が算出されるようになっています(図21)。
なお、損益計算書の基本要素、「収益」、「費用」、「利益」の関係を公式で表すと次のようになります。
収益─費用=利益ではこの「収益」、「費用」、「利益」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
①収益収益とは、販売した商品や提供したサービスの対価のことを言います。
収益は次のように細分化することができます。
なお括弧の数字は右図「損益計算書の基本パターン」各項目に対応しています(以下「費用」、「利益」も同じ)。
⑴売上高……………一定期間における商品や製品の売上によって得られた収入
⑹営業外収益………本業のうち営業活動以外の部分で生じた収入例…受取利息
⑼特別利益…………本業以外の活動で生じた臨時的な収入例…固定資産売却益
②費用費用とは、収益を上げるために支払われた支出のことを言います。
費用は次のように細分化することができます。
⑵売上原価……………当期に販売された商品の仕入ならびに製造に関わる費用
⑷販売費………………商品や製品の販売に要した費用
⑷一般管理費…………企業の全般的な管理運営に要した費用
⑺営業外費用…………本業のうち営業活動以外の部分で生じた費用例…支払利息
⑽特別損失…………本業以外の活動から生じた損失、及び突発的な損失例…火災損失
③利益利益とは、企業が商品の販売あるいはサービスの提供により、得られた収益と、その収益を得るために支払われた費用の差額のことを言います。
損益計算書では以下の5つの利益が表示されます。
⑶売上総利益………売上高とそれに対応した商品原価の差額。粗利益とも言う
⑸営業利益……………売上総利益から販売や全体管理にかかった費用(販売費及び一般管理費)を控除した利益
⑻経常利益……………営業利益に営業活動以外の部分で発生した収益(営業外収益)と費用(営業外費用)を加減した利益
⑾税引前当期利益……経常利益に、本業以外の部分で発生した特別の利益(特別利益)と損失(特別損失)を加減した利益
⒀当期利益……………税引前当期利益から法人税等を差し引いた利益
財務諸表の中でも損益計算書は直近1年間の企業の成績表と言えるものであり、「数字はわからない」という方でも比較的理解しやすいのではと思います。
中小企業の経営者として特に関心を持っていただきたいのは売上だけでなくやはり粗利、売上総利益の推移です。
それに加えて原価率をはじめコストに関してはまずは変動要素のあるものは売上対比率での年次はもちろん、月次での推移を押さえておきたいところです。
また、人件費については「労働分配率=会社の分配可能な付加価値(主に売上総利益、粗利)がどの程度労働の対価(人件費)に支払われているかを示す指標(人件費÷売上総利益×100)」にて適正値を管理するという方法もあります。
経営計画立案手順の最初のほうでもご説明しましたが、過去からの売上推移と共に、粗利の推移を確認して初めて会社の現状が見えてきます。
売上だけでは、「無理をしてあまり効果の上がらない分野、市場、顧客に過剰なコストをかけているのではないか」とか、逆に、「適切な投資が行われ、常に有望な商品・サービスが開発されているか」、といったところまで把握することができません。
また、粗利は自社の商品やサービスが顧客にとって価値あるものなのか(値引きせずに買ってくれるものなのか)?という指標としても留意する必要があります。
④自社の「儲ける力」を確認する次に、損益計算書(図22)の内容から、借入に対する年間の返済財源が適正であるかを把握します。
仮に毎月の返済額が50万円であるとすれば、年間では600万円になります。
この600万円を、今年自社が稼いだ中から返済するのか、それとも他からの借入や資金の切り崩しによって返済していくのかでは全く意味が異なってきます。
稼いだお金、即ち図22の表でいえば「減価償却費」と「当期利益」の合計が600万円以上あり、ここを原資としての返済であれば、確実に借入は減っていきます。
そうでない場合は返済のための借入を重ねることにもなりかねませんので、必ず「減価償却費」+「当期利益」が年間の返済額を上回っているかどうかを確認します。
もし、この欄が赤字であったり、黒字でも返済額である600万円に達していない状況なら、これを「早々に財務体質を改善すべき予兆」と捉え、対策を立てなければなりません。
ちなみに、経営危機の予兆が見えた際、打てる手は
●コストコントロール
●売上拡大策
の2つとなりますが、必ずコストコントロールから先に実施していきます。
コストコントロールにおいては、まず、過去3~5期分くらいの損益計算書を用意し、原価、人件費といったコストの売上対比を出して、異常値がないか確認します。
もし異常値があれば適切な数値を設定し、月次ペースで管理していきます。
ここで留意すべきことは何でもかんでもコストダウン、コストカットではなく、「まずは適正値になるように徹底管理する」ということです。
多くの中小企業の場合、それだけで赤字から脱却できることがあります。
以上のように適正なコストコントロールを実践し、少なくとも収支を合わせた上で、売上拡大策を打つ段階に入ります。
中小企業では、経営危機の際、この「利益を増やす順番」を間違わないようにしましょう。
中小企業の場合、資金調達はどうしても間接金融(金融機関から借入をするなど)に頼らざるを得ません。
そうなった場合、「この会社はお金を返せる会社なのか?」というのがお金を貸す側にとっての肝となります。
このために、上記のような「順番」が重要となってきます。
新たなチャレンジの前にまずは経営者自らが数値に強くなり、適正な管理によって足元を固めておくことこそ、企業存続の要諦となるのです。
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