ここまで、経営者にとっての経営理念の重要性について述べてきました。
自社の存在価値や事業の目的を経営理念とするならば、そこへ至る道筋や移動手段を選択することが経営戦略であり、立案された戦略を進捗スケジュールにまで落とし込んだロードマップが経営計画ということになります。
この第3章より、具体的な戦略的中期経営計画の策定について解説していきます。
「企業とは環境適応業である」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか。
既にご説明してきたように、企業にはそれぞれ社会において果たすべき使命、社会に対して提供すべき価値というものがあり、その実現のためには売上を上げ、利益を上げて永く存続することが必須となります。
しかしながら、その間も、企業を取り巻く環境は常に、刻々と変化しています。この変化に適応できるか否かで、企業の寿命は決まるのです。
例えば、人口動態の変化により、市場のニーズが大きく変わることがあります。
新しい道路ができたり、橋の位置が変えられたりすることで人や車の流れが一変し、それまでの繁華街が一気に寂れてしまうこともあります。
盤石の基盤を築いていると思われた大企業が、技術の進化についていけず、いつの間にか姿を消してしまうこともあります。
優れた戦略とは、「連続的、長期的に勝ち続ける方法」であり、企業経営においては、「将来の成功要因を獲得することで永く存続を続け、発展し続ける方法」と言い換えられます。
そして永く存続するためには、上述のような環境の変化に適応し続けることが必要となるわけです。
経営環境が変化すれば、その環境下での成功要因も、当然変化します。
従って具体的には、
- ●過去の成功要因(失敗要因)を分析して当時の経営環境との関係性を明らかにする
- ●今後3~5年後までの間に起こり得る経営環境の変化を予測する
- ●そこから導き出される将来の成功要因を明らかにし
- ●いかにしてその成功要因を獲得していくか、自社の強み・弱みも踏まえて検討し
- ●必要な体質の強化を図る
というステップに基づき、立案された戦略こそ優れた戦略ということになります。
このようにご説明すると、「今後の予測なんて、そう正確にできるものじゃないのに、外れたら意味がなくなるじゃないか」と疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
予測の中には、誰でも間違いようのないもの、例えば、「今後ますますこの地域の高齢化が進む」とか、「このまま行けば、この土地を訪れる国内の観光客は減る一方だ」というものもありますし、異常気象や海外で起こった貿易摩擦、そこから発生する為替リスク……というように、予測のつけようのないものもあります。
予測が当たった、外れたといって一喜一憂する必要はありません。
不測の事態が起こった時には、その都度計画を見直し、修正していけばよいのです。
戦略的中期経営計画を立案し、実行する中で、いかなる環境の変化にも速やかに適応できる、強靭な企業体質がいつしか築かれていることに気づくことでしょう。
なお、一般的な経営計画においては「3年後には売上○億」、「○%成長」というような数値目標だけのものがよく見られますが、これはあまり意味がありません。
もちろん「数値」とは、自らの仕事を通じて創意工夫した結果、お客様から得た「評価」ですから、当然ながら大切な経営指標です。
ただし戦略的中期経営計画における「数値」とは、
- ●自社の経営ビジョン実現のために
- ●既存業務だけでなく新たな取り組み(販路開拓、商品開発等)をも視野に入れ
- ●「誰が」やるのか?という責任分担も含めて計画化し
- ●同時に社員にとって働き甲斐のある環境を整備することで組織を活性化する
……という一連のプロセスを経て策定された計画が、どの程度実現されたか進捗を確認するためのもの(指標、評価目標)です。
従って数値目標だけを設定するのではなく、それを実現するためのプロセスを策定することこそが重要となります。
確実に実行される計画とするためには、戦略を細かい行動レベルにまで落とし込み、「なるほど、これなら実行できそうだ」という取り組みイメージを社員に持ってもらうことが有効です。
さらにもう一点、戦略の実行性を高めるには、「周囲を巻き込んで策定する」ことも有効です。
例えば、自社の過去の成功要因(失敗要因)を分析するなら、昔を知る先代社長や、古参の社員の協力が不可欠です。
また、幹部陣と一緒になって策定すれば、コミュニケーションを深める場ともなり、同時に幹部陣の経営スキル向上にも効果があります。
一緒になって会社の将来を考える中で「この人、こんなことを考えていたのか」と互いへの理解も深まりますし、「みんなで考えた」ことで最終的にできあがった計画への納得性も高まります。
もちろん、新規事業を手がけるとか、新しい市場に打って出る、というような大方針はトップが打ち出すべきことですが、ではどんな事業がいいか、どんな新商品が開発できるか、と検討する段階では、衆知を集めたほうが、より有効なアイデアが得られるかもしれません。
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