前項までで、次世代経営者が保有すべき3つの財務知識として●現金収支の流れを把握する●自社の儲けの構造を把握する●現金に近い所から自社の安全性を把握することを挙げ、説明してきました。
これらはいずれも「短期的に自社の経営を存続させるために必要な知識」という位置づけになります。
つまり求められるのは「既存の事業」で「短期的に」現金が回らなくなるという事態を防ぎ、その間に儲かっていない部分を明らかにして改善を行い、その結果としての会社の安全性・効率性がどうであるか?を確認していくという視点です。
そのため、この3つの財務ポイントの視点で自社を改善する方法は、「延命戦略」と呼ばれます。
それに対し「戦略的中期経営計画」は「成長戦略」と呼ばれる考え方です。
即ち必要となるのは、今後の環境変化に適応していくため3~5年後に向けて自社の体質をどのように変えていくか(どこの・誰に・何を・どのように提供するのか?それをどんな布陣で実現するのか?)という、今後数年間の過ごし方を考える視点ということになります。
経営戦略は、この「延命戦略」と「成長戦略」の2つから構成されており、決してどちらか一方だけ考えればよいというものではありません。
重ねての説明になってしまいますが、これこそが「次世代の経営者が押さえなければならないポイント」です。
つまり、●目先の収益を確保するための「延命戦略」(=既存戦略)●将来の収益を保証してくれる「成長戦略」(=革新戦略)の2つを両立させるということです。
では、改めてここから成長戦略である戦略的中期経営計画に話を戻し、計画策定の最後の仕上げとして、財務の観点から成長戦略を評価する「事業計画の考え方」をご説明しましょう。
これまで作成してきた「戦略的中期経営計画」が絵に描いた餅で終わらないようにするためには、財務の観点からその妥当性を評価する必要があります。
そもそも「戦略的中期経営計画」における数値計画とは、●ビジョン実現のため、既存業務に加えて行う新たな取り組み(販路開拓、商品開発等)を明確にする●「誰が」やるか?という役割分担を決めることで、社員にとって働き甲斐のある環境を整え、組織を活性化する●その取り組みの実現度、計画の進捗を評価目標(数値)によって確認するというものです。
ここに新たに、●ここまで検討してきた「戦略的中期経営計画」を遂行したら、どれだけ儲かるのか(=会社として必要な財務目標に到達できるか?)という、計画の実現可能性そのものを評価する視点が必要となるのです(図25)。
事業計画の作成プロセスは以下の通りです。
●経費等から割り出される会社にとっての「必要売上高」を算出します●案出した各施策から割り出される妥当な「見込み売上高」を算出します●最後に、両者の売上高の大小を比較します比較して「見込み売上高」のほうが大きかった場合は、考察した施策を実行さえすれば目指す状態を超えることになりますので、あとは施策の遂行に専念すればよい、ということになります。
しかし「必要売上高」のほうが大きかった場合は、そのギャップを埋めるための施策を改めて策定し直すことになります。
そうしなければ、このまま戦略を遂行しても会社として必要な財務状態を実現できない、ということになってしまうからです。
このプロセスを、「見込み売上高」が「必要売上高」を超えるまで、何度も繰り返します。
つまりは、施策として「やりたいこと」だけを優先させるのではなく、「それが収益につながるのか」と客観的な数値で評価することで、経営のバランスをとっていくわけです。
このようにして最終的に「見込み売上高」が「必要売上高」を上回るまで施策の評価・検討を重ねることによって、初めて戦略的中期経営計画が、絵に描いた餅でなく、現実的かつ妥当性のある計画、つまり、気合と根性の計画ではなく十分な根拠を以て論理的に策定された事業計画となるのです。
ちなみに、外部に財務諸表を提出することを目的とした「財務会計」と異なり、経営者が自社の舵取りに活かすための諸々の指標を反映させたものが「管理会計」と言われ、後者はもっぱら社内で日々の意思決定に向け、活用されています。
管理会計は会社全体や個別の事業のパフォーマンスを把握するための会計で、製品をつくるのにラインごとにどれだけ原価がかかっているのか、付加価値を生んでいるのか、いくつ売れば利益が出るのか、どれだけのお客様を集客しどれだけの単価なのか等、会社の動きそのものを的確に知ることができる経営者のための会計です。
財務会計と異なり外部に開示する必要は無く、社内でのパフォーマンスを測る指標となります。
「財務会計」が過去の経営結果を示すものであるのに対し、「管理会計」は未来に向けたものなのです。
戦略的中期経営計画を遂行する上ではこの「管理会計」を導入し、事業ごと、組織ごと、また店舗ごと等、それぞれ重要指標を設定し、数値管理していくことで計画の実現性を高めていきます。
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