CaseStudy
Aさんは若手経営者の勉強会で戦略や経営計画の必要性を学び、さっそく自社の経営計画を策定しました。
社員にも売上や利益などの数値目標を共有し、全社一丸となって「頑張って達成しよう!」という空気をつくることができた……と思っていました。
しかし後日、社員のBさんから、こんな相談を受けました。
***先日の売上と利益目標を店舗のアルバイトにも伝えたところ、中の1人、C君という学生アルバイトが、「そもそもなぜ、売上を上げなければならないのですか?」、「なぜ、利益を出さなければならないのですか?」と言い出し、こんな会話になりました。
「そりゃ君たちの給与を払わなければならないからね」「では、赤字だったら給与は払っていただけないということですか?」「そういうわけではないが……」「僕が聞きたいのは、なぜ目標を掲げてまで売上や利益を上げなければならないのか?この店にとって売上と利益を上げるとは何を意味するのか?ということなんです」
C君に思いがけないことを問われて、自分でもしっくりしない答え方しかできませんでした。
こういう場合、Aさんならどう説明されますか?***
Bさんは、Aさんの直属の部下にあたります。あなたがもしAさんだったとしたら、上司として経営者として、どう答えますか。BさんはC君に、どう説明すれば理解を得られたのでしょうか。
前回のケーススタディと同じく、今回も正解はありません。
過去には「そんなことを言う社員やアルバイトはいてくれなくてもいいのでは?」と言われた方もいらっしゃいましたが、それではケーススタディになりませんので、C君は口では時々そんな理屈っぽいことを言うものの、店にとっては頼りになる存在で、辞められては困る……という設定でお考えいただければと思います。
いかがでしょうか。
皆さんはどう説明されますか。
実際の次世代経営塾の受講生の皆さんからは、
- ●会社を存続させていくため、社員の生活のため
- ●会社の成長のため、会社を大きくするため
- ●社員への還元、会社が良くなれば時給・給与・ボーナスが上がる
- ●自分や家族の生活を豊かにするため、皆の生活を良くするため
- ●一緒に仕事をする社員みんなが幸せになるため
- ●より良い事業の発展のため
- ●より働きやすく未来のある企業、職場にするため
- ●商品・サービスを発展させ、提供し続けるため
- ●このお店だから働きたい、このお店で働けてよかったと思えるようなお店にしたい
- ●社会の仕組みを説明する、納税による社会貢献、地域貢献
等々
……といったように、様々な視点からの意見が出てきました。
「売上を上げ、利益を追求すること」は企業にとって当然の営みです。
だからこそ、その当然のことを自分の言葉で、相手に伝わるように説明できなければなりません。
しかしながら、改めて「なぜか?」と聞かれると、「このことについてこれまでしっかり考えたことがなかった」という方は意外と多くいらっしゃいます。
このケーススタディは、「売上・利益を上げることで自社は何を実現したいのか?」を問うものです。
即ち、何のために会社を存続させ、何のための経営を続けているのかという、企業経営の本質を訊ねています。
売上とは何か。それは端的に言えば、顧客からの「支持」です。
利益(この場合、粗利のことを指します)は、その会社が提供する商品やサービスを通じて顧客が受ける『価値に対する対価』と言い換えられます。
売上=客数×客単価であり、自社を支持する顧客が増えれば、そして顧客1人あたりの購買価格が上がれば、売上が上がるということになります。
従って、売上を上げていくというのは自社の商品やサービスを支持してくれる顧客を増やすことになります。
そして利益とは、顧客が認めてくださった「価値」に対する対価でもあります。
例えば、競合他社と価格競争に陥っている商品があるとします。
他社が1円安くするなら自社は2円下げる、そんな競争を強いられるということは、即ち、「もはや価格を落とすことでしか顧客に自社の価値を感じていただけない」状況だということです。
商品そのものの良さや提供面での魅力で選ばれているわけではなく、「どこでも買える、何の特別感もない商品」を他社と同じように売っているだけ、ただ価格が高いか安いかだけで顧客に判断されているという状況です。
中小企業の場合、この状況に陥ると、自社の本来の利益を削らなければ売れませんので、当然ながら値引きが続き、粗利が低下していきます。
利益が低いとは、それだけ他社と差別化が図られていない、自社独自の存在価値を確立できていないということで、日々の努力だけでは問題の解決は困難と言わざるを得ません。
では、自社の価値を高め、顧客の支持を得ていくためには、何が必要でしょうか。
様々な要素が挙げられますが、まずは事業の目的を明確にすること、会社の方向性を明示することが重要です。いわゆる経営理念です。
経営者としてどのような価値観を大切にしていきたいか、それに基づいてどのような価値を創造していくのか、何を以て顧客に認められたいのか。
経営者として何を軸に「経営判断」を行うのか、その心の拠り所となるものです。企業経営とは突き詰めれば「理念」実現のためにある、と言っても過言ではありません。
高校の野球部を考えてみても、「身体を動かすのが好きだし、楽しく野球をしたいな」という程度の動機で入る子もいれば、「甲子園に行って、将来はプロ野球選手になる」と考えている子もいるかもしれません。
しかしながら、1人ひとり、想いがばらばらのままでは、強いチームをつくることはできません。
同じ目的を共有するからこそ、各自が「そのために自分は何をするか」と考えるのであり、その個々の努力が有機的に結びついてこそ、チームとしての力が発揮されていくのです。
自社は何のために事業を行い、何を大切にする会社なのか、まずはその点を明確にしていきましょう。
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