中途採用において、私がおすすめするのは、異業種や異職種からの転職者を狙うことです。「採用した結果そうなってしまった」ではなく、求める人材像の設定段階から、あえて異業種や異職種を狙うのです。
看護師や薬剤師、歯科衛生士など、仕事をする上で専門資格が必要な職種以外の中途採用では、最終的に異業種や異職種から採用して成功するクライアントが多いのが実情です。
同業他社からの応募がダメというわけではないのですが、面接研修により面接官のスキルが上がり、人間力を見抜けるようになった結果、最終的に合格しているのは、異業種・異職種となるケースが多々あります。
これにはさまざまな理由があります。
異業種×異職種であれば、あなたの会社の業務すべてが新鮮に映るため、自社の採用ページでしっかりと、業界の特徴や会社の特徴、会社の軌跡や商品開発ストーリーを伝えることで、「こんな会社や仕事があるのか!」と、応募者に会社の仕事に興味を持ってもらう確率が上がります。
ご存じの方はNHKの「プロジェクトⅩ」を思い出してください。例えば、国内でネジを作っている会社があるとします。
普通に考えたら、製造業であり工場での仕事ですから、一見すると人気がなさそうです。
しかし、三十年以上の歴史がある会社で、その会社のネジは特許を複数取得しているなど、さまざまな技術が盛り込まれていて、実は海外からも受注があるような会社だったとします。
さらに、ネジを作る事に会社の想いが凝縮されていて、コストではなく徹底的に技術を重視した結果、世界で認められたネジの開発までに様々な苦労があって今があることが分かれば、あなたはどう感じますか?さらに、定着率がよく、経営者も尊敬できる人で、キャラクターに特徴のある人物なら、異業種や異職種の人が心にグッときて応募をしてくるかもしれません。
しかしこれが、ネジを作っている別会社で働く転職希望者であれば、業界のことを知っているが故に、「こんな業界や仕事もあったのか!」という珍しさもなく、雇用条件面で優れていなければ応募してこない可能性があるのです。
専門技術の教育の箇所でも書きましたが、業界に長くいると、その業界の常識におかされます。そして視野を狭くしてしまうのです。
しかし異業種にとっては業界特有の文化や考え方が、あまりにもこれまでいた業界と違って新鮮で、非常に魅力的だったりもします。
この場合、応募者の転職活動は、同業他社に複数応募するのではなく、「その会社にだけ応募しており、他社を受けていない」パターンもよくあります。
結果として、あなたの会社の求人が、「新卒で入社した現在の職場での待遇や評価もよいため、そこまで不満があるわけではないが、今後の人生や将来のことを思うと、本当に自分がやりたい仕事(会社)があれば転職を考える」という中途採用では〝最もよい層〟の人材に響くかもしれません。
これまで中途採用時の求める人材像設定で、あまり意識してなかったのであれば、異業種や異職種からの転職者にもぜひ目を向けてください。
意外な出会いがあるかもしれません。
特に、中途採用によって社内に新しい考え方を入れたり、社内を活性化させたいのであれば、異業種からの転職者を採用するメリットは大きいといえます。
あなたの会社に中途で入社して活躍している転職者から、以前にいた業界での話を聞き、そこで導入されている営業手法やノウハウ、ビジネスモデルを自社向けにカスタマイズして導入すると、簡単に売り上げが上がったり、業界内で一気に地位を確立できることもあります。
自社のいる業界が古い業界であればあるほど、業界の常識がはびこっているので、他業界の事例を導入してみるとよいでしょう。その際に、転職者の前職の経験が生きるのです。ですから、異業種からの転職者の意見は大切にしましょう。
経営者であれば、中途採用者と会食(ノミニケーション)を通じて、前職の業界での話にも耳を傾け、参考になるもの、よい風習は自社に取り入れてください。
同業種のまねをすると、業界内でいろいろと問題になりますが、異業種の手法を参考にして、自社で独自にカスタマイズすれば、その業界での先駆者となれるのです。
そのためにも、スタッフがいろいろと提案しやすい雰囲気と社風、意見を吸い上げる仕組みを作りましょう。自社スタッフの過去の経験にも成功のヒントがあるのですから。
専門技術の教育の箇所でもふれましたが、転職者や異業界を知っているスタッフの意見はぜひ、大切にしてください。「前の会社ではこうだった」という人の意見の中には、参考になるものもあるのです。
ここで一社、参考になる具体的な事例をご紹介します。異業種だけを狙った採用活動の成功例です。
その会社は「ブレイブクラフトマン」と言って、福岡にある靴の修理屋さんです。靴の修理をする人たちは、職人意識のある人たちが多いそうです。
技術習得に関しては意識が高い反面、接客などのサービス面への意識が低い方も多く、その会社は中途採用をしては失敗を繰り返していました。
そんなときにご縁があり、弊社がコンサルティングをすることになったのですが、お話を伺う限り、技術に関して育てる意識が高い社長だったのと、接客面での差別化をはかっていたので、異業種から採用することに決めました。
求める人材像を面談やインタビューを通じて明確にしていくと、採用したい人の必須条件として「靴が好き」「オシャレ」「手に職を持ちたいという意識」「接客スキル」などの項目があがりました。
これらのスキルを持つ業界を分析し、最終的に靴の修理とはまったく違う業種で、ある二つの業界を採用活動のターゲットにすることを提案しました。
あなたは、先ほどの条件をもつ転職希望者がいるのは、どの業界か予想できますか?少し考えてみてください。
「答えは次ページで」としたいところですがページ数の関係で答えを言います。
「靴が好き」「オシャレ」「手に職を持ちたいという意識」「接客スキル」などを持っている人が多く、転職時は異業種に興味を持つ人も多いので、経営者と話し合った結果、ターゲットとする業界を「美容師業界」と「アパレル業界」にしたのです。
その二つの業界で働く人に向けて、社長の理念や会社のウリを明確にした求人ページを二つ制作し、採用活動を始めたところ結果は成功。
美容師業界やアパレル業界の人からばかり応募があり、最終的には会社の右腕となる人材を採用でき、その人は会社で現在もエースとして活躍しています。
このような異業種のみを狙った中途採用での成功事例が、弊社には数多くあります。人材像の設定においては視野を広げることが成功の秘訣なのです。
【■POINT■専門資格が不要なら、異業種や異職種には優秀な人材が隠れているので検討の価値あり。】
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